月に一度の美容室。パーマ液をなじませて、時間が経つのを待っている。
髪を整えに来た。ただそれだけのことなのに、店に入った瞬間から少し気分が軽い。毎月のことなのに、やっぱりいいな、と思う。
待ち時間というのは不思議なもので、普段なら考えないことがふと頭に浮かんでくる。今日浮かんだのは、「自分を肯定できるものを、僕はいくつ持っているだろう」という問いだった。
毎日、戦場に飛び込んでいる
僕の仕事は広告とイベントの企画制作だ。この業界に入って18年。今は執行役員として事業や組織にも関わっているが、相変わらず自分で案件を動かし、クライアントと向き合い、必要があれば現場にも出る。
イベントの仕事は、計画どおりに進まないことの方が多い。予定は変わるし、想定外のことも起きる。毎日が小さな戦場のようなものだ。
そういう場所に飛び込み続けていると、気持ちの持ち方がそのまま仕事に跳ね返ってくる。気持ちが下を向いているときは、判断まで鈍くなる。だから僕は、できるだけポジティブでいたいと思っている。
ただ、ポジティブシンキングは気合いだけでは続かない。「よし、前向きにいこう」と思うだけで前向きになれるなら、誰も苦労はしない。必要なのは、自分で自分にOKを出せる小さな根拠だ。
鏡の中の自分に、OKを出す
その根拠のひとつが、鏡に映った自分だと思う。
髪がさっぱりしている。顔まわりがすっきりして、なんとなくさわやかに見える。それだけで、少し背筋が伸びる。
もちろん、これは完全に自己満足だ。他人から見れば、店に入る前と出た後でそれほど違いはないかもしれない。それでいい。大事なのは誰かの評価ではなく、鏡の前の自分が「悪くないじゃないか」と思えるかどうかだ。
40代になって、見た目で勝負しようという気はもうない。けれど、だからこそ身なりを整える意味は変わってきた気がする。人にどう見られるかのためというより、自分の機嫌を自分で取るための手入れ。今の僕にとって美容室は、そういう場所なのだと思う。
洋服が好きな理由も、たぶん同じ
考えてみると、僕が洋服を好きな理由もここにある。
新しい服に袖を通したとき、そこにはいつもと少し違う自分がいる。それだけで気分が上がって、その一日を晴れやかな気持ちで働ける。大げさに聞こえるかもしれないが、本当にそうなのだ。
服は人に見せるものだと思われがちだ。でも、いちばん近くでそれを見ているのは、ほかでもない自分自身である。袖を通した瞬間の「いいね」という感覚。その小さな高揚感が、一日の始まりを少しだけ軽くしてくれる。
戦場に出ていくための鎧、と言うと格好をつけすぎだろうか。それでも、気持ちを整えてくれる道具という意味では、そう遠くない気がしている。
誰に何を言われても、好きなものを着る
ひとつだけ、譲れないことがある。自分が好きなものを着る、ということだ。
年相応とか、無難とか、世の中にはいろいろな物差しがある。それを否定するつもりはない。ただ、人に言われたから選んだ服や、無難だから手に取った服では、鏡を見ても気分は上がらない。誰かの正解に合わせた自分には、OKを出しにくいからだ。
誰に何を言われようと、好きなものを着る。それはきっと、自分で自分を肯定するための、いちばんシンプルな方法なのだと思う。
晴れやかに働くための、小さな準備
仕事と遊びは対立するものではない、と僕はずっと思っている。
美容室に行くことも、服を選ぶことも、ある意味では遊びの延長だ。けれど、その時間があるからこそ、次の日の仕事に晴れやかな気持ちで向かえる。仕事のために自分を後回しにするのではなく、自分を整えるから、もっと働ける。40代の今は、そんなふうに考えている。
そろそろ時間だ。
仕上がって鏡を見たとき、僕はたぶん「悪くない」と思うだろう。それが自己満足でも、まったく構わない。月に一度、自分にOKを出しに来る。それくらいの理由で、ここに通っている。


コメント